事務所の脇にある、一般の人も利用できる休憩スペースにTさんが座っていたらしい。

今日の夜、ご飯を一緒に食べる約束をしているが、待ち合わせにはまだ早い。

気付いた別部署の人が、ひそひそ声で「あそこにTさんが座ってるんだけど…誰か打ち合わせ?」と話していることに気が付いて、血の気が引いた。

Tさんは自分が割と有名人だという意識が薄い。

慌ててTさんのところに向かうと「あ、サキちゃん~ちょっと早いんだけど、どんなところで働いているのかな~と思って来ちゃった。あ、これ、良かったらみなさんでどうぞ。サキちゃんの分は別にあるよ」と屈託のない笑顔でどら焼きをたくさんくれた。

また声がよく通るもんだから、耳を澄ませていた事務所の人たちには丸聞こえだ。

「あ、亀十のだ!ありがとうございます。って、わたしまだ仕事終わらないですよ。TSUTAYAにでも行っててください」「ここで本読んで待ってる!」「……」。

“Tさんがくれた”亀十のどら焼きは、事務所の皆に評判で、正面切って「付き合ってるの?!」とは聞かれないものの、わたしが何かを言うのを待っている顔をしていた。

「友達です」。

 

今日は焼き鳥の予定で、わたしはレバーをたくさん食べるつもりだよ。