髪を切った。なんだか変化が欲しくて短くしてしまい、少しだけ後悔している。
わたしは髪が伸びることを知っているので大きな地獄ではない。
しかし伸びることにある程度の時間がかかることも知っているので、輪郭のはっきりした地獄である。
地獄は形を越え、付きまとうものだ。たとえ天国にいたとしても。


***


●●●と交流のある(というか一時期関係があったんじゃないかと思う)某モデルが、SNSに同棲をし始めた恋人との日々をアップしている。
彼女が料理している台所が、●●●の家ではないことがはっきり分かってホッとした。
わたしが●●●のことを吹っ切る日が来るとしたら、次に大きな恋愛をしたときではなく、それを失ったときだろう。


***


大学時代から仲の良い女の子たちが全員結婚した。

家から一番近いヴィレッジヴァンガードが閉店セールをしている。閉店、とても悲しい。
半額になっていたヒグチユウコのマスキングテープと、白熊モチーフのコースター、仕事で使えそうなサコッシュ、たなかみさきとマムちゃんの手ぬぐいを買った。

スーパーで割引になっていた、いわし明太を買う。
"他人の卵を腹に詰められている食べ物"だと思うと感慨深い。「こんなはずじゃなかった」と言っている声が聞こえる。

***

Oさんから「何かあった?いま電車だから降りたらかけ直すね」とメールが来た。
わたしは電話がとても苦手で、滅多にかけないし出ない。
Oさんのことがとても好きなので、念で着信を残してしまったのかと焦ったが「サキちゃん違いだった!」。
「お店のサキちゃんだった。思い切り営業の電話だった!」とのことで「あぁ、可愛い方のサキちゃんだったんですね」と返信した。
「もっと可愛い方のサキちゃんは元気にしてる?」と重ねてきたOさんはさすがだと思う。

今年2回目の逢瀬。
Oさんの友達のお店へ行き「お腹すいてる?」と聞いてもらってメニューにはないカレーなんて出してもらっちゃって「表の看板ひっくり返してきてくれる?」なんて言われて、常連ぽさに照れ笑いしてしまう。

「サキちゃんをあのバーに連れて行こうと思うんだよね、やってるかなぁ」「あ、あそこはまだやってますね。僕は仕込みがあるのでお二人で行ってください」。


風にあたりながら10分ほど歩いたところにあるバーはものすごく素敵で、Oさんが「薄ーく、あ、今考えた倍の薄さにしてください」と注文してくれた桃のカクテルがものすごく美味しかった。Oさんと飲むお酒が一番おいしい。
「さっき、僕の友達、普通に一緒に来ようとしてたよね!」「はははは。いいじゃないですか別に」「やだよ!」。

「最近ね、自分がつまらないと思うことにもしかしたら価値があるのかもしれない、つまらないなぁと思う人と付き合うことで見えてくるものがある気がしてるんですよ」
「それは…サキちゃんの面白さが浮き彫りになって絶望するだけでは」。

「和菓子を丁寧に丁寧に撮る仕事をしたよ」。

わたしたちは手をつなぐことも、キスをすることもなかった。
帰り道、わたしの家に寄って一杯飲みたい、みたいなことを言われたような気がしたが「わたしが次の日休みの日にしましょうね」と返した。
セックスをしないでいたい、と思える関係は初めてだと思う。
Oさんのことがとても好き。

職場用に、USBで充電、置くことも持ち運びもできる小型扇風機を買った。
「たまにある外での作業のときにも便利だよね~」「グッズ並ぶときにもとても良いです」。同僚はジャニオタだ。
以前は「◯◯(推しの名前)と付き合ったらこっそり教えてね」「◯◯が教えて良いって言ったらね」という会話をした。さすが。

***

仕事が忙しくなってきた。
“自分の責任”とはっきり分かるような仕事だけを進めて、他のことをきれいさっぱり無視できる上司のおかげでストレスがすごい。

点滴を受けてからもなかなか体調良くならず、とうとう下血し、病院へ。
食べない方が良いもの、飲まない方が良いものを聞く。
「柑橘は食べないでね」
「あ。やっぱり酸っぱいものは良くないですよね」
「それもそうなんだけど、あのつぶつぶをね、一個ずつ消化するのは相当大変なことだからね」。
改めて言われてぞくっとした。

添加物、古い油を摂ると覿面に調子が悪くなるので、出来るだけお弁当を作って持っていく。
コーヒーも我慢している。
健康なまま消え死にたい。

湿気がすごい。少し腰をひねれば身体から水滴が染み出そうだ。
その水滴を小瓶に詰めて【東京23区/女/40歳/2020.7.18】とラベルを貼り、ひとつ300円で売る商売をしようかな。
場所は河原、つげ義春の漫画みたいに。そんなことを考えながら眠った。

***

久しぶりの晴天。仕事。
お昼を買いに外へ出ると、全員の頭の上に「洗濯しなくちゃ…」という吹き出しが見えた。
仕事場階下にMさんが来ていることを知り、覗きに行く。推しに会えた気持ち。

***

明日は美容院へ行く予定。
ここ何ヶ月かは仕事に行くかスーパーに行くか美容院に行くか病院に行くか、だ。
Tさんにラインする。
「明日美容院に行くよ」
「お、もうそんな経ったか」
「うん、1ヶ月弱だね。ちょっと長めキープしようと思う」
「ほうほう」
「長めの方がセックスが似合うでしょう」
「何度も言うけど、僕それ分かんない。いや、言っている意味はよく分かるんだけど実感は伴ってない」
「Tさんの歴代の恋人はみんなショートカット?」
「ん~、そんなことないよ」
「なにか共通点ある?」
「それがあんまりないんだよねぇ」
「……つまらん!!!」
「サキは?」
「もれなく天然パーマ」
「マジか」
「マジだ」。

***

買ったときはどう着ていいか分からず放置、
しかし好きなテイストであることは間違いないので捨てずにいた服が、数年経って大活躍、ということが割とある。
最近着ているのはそんな歴史があるようなものばかりだ。
その中の一着が、破れた。
薄い素材だということもあって、単純に縫うだけでは明らかにおかしくなってしまう。
霜グレーのフェルトを三角形に切り、カラフルな刺繍糸で縫い付けた。
それを見たTさんが「センス抜群な貧乏な家の子じゃん!」と言うので笑った。


***


毎年6月7月は、体調が悪い。気圧気温湿気、全てに振り回される。
自分の内臓相手に不戦敗する気分。
いつも行く病院が臨時休院だったので絶望しつつ別の病院へ行く。
待合室で座っていることもままならず、受付で「どこか横になって待てるところはありますか…」と言った結果、手術室に通された。
手術室という名のついた、明らかに「そういうスペース」で、カラムーチョの段ボールに入った緊急用のトイレや電気毛布、アムウェイの紙袋に入った懐中電灯など、見どころ満載だったが、堪能できずに残念だった。
点滴のあまりの効果に「コスパ良すぎでは」と思う。冷静になればコスパが良いわけはない。


***


仕事のことで上司にいろいろメールで質問する。
文面からはっきりと「細かいこと言ってないで黙って働けや」というのが伝わってきて、
これがプライベートだったらどんなに落ち込むことだろう。
絶対に黙らない。働くからには黙りません、という気持ち。


***


●●●が夢に出てきた。
わたしたちがしたことといえばセックスだけだが、生活を共にするところが細部まで再現されていた。
起床即涙が止まらなくなる。
2018年の年末に会ったのが最後だが、●●●を思い出さない日はない。

上司が入院・手術をし、休職している。
わたしから見ても明らかにおかしな状態だったし、病院でも「なんでこんなになるまで来なかったの?」と呆れられて即入院・手術だったらしく、
あぁ、こんなにも自分に無頓着な人が、部下たちに気を配れるわけないんてないよね、と妙に納得してしまった。
「大丈夫大丈夫」と有給は消化せずサービスは残業しまくりで仕事を続けることが、
部下たちに同じように働くことを強制してしまうかもしれないということなんて、想像出来るわけがないのだ。
こういう形のパワハラもある。

***

遅番出勤の日、髪をセットする時間があった。
前髪にアイロンをし、ワックスをつけて整えた。明らかに気分が良くて笑ってしまった。
ちょっとしたことで気分が変わることや救われることがあることは40年も生きていれば重々承知している。
ありがたく受け入れるけれど、わたしは欲張りなので、小さな幸せも大きな幸せもすべて欲しい。