体力はないが生命力はある。子どもみたいだ。

痛みには強いがダルさには弱い。動物みたいだ。

体調不良の中、本社へ行き昇進面接を受けた。こういうときのわたしは本当に信用ならない。体調不良だとは誰も気づかなかったと思う。そして無事合格した。


体調が徐々に良くなっていくときの、異常な万能感は何だろう。すっきり痩せて、部屋のものも減らし、無駄遣いもせず、毎食自炊している自分が浮かぶ。可愛くなって世界征服する、というずっと持ち続けている夢が叶うような気がしてくるのだ。実際には、食べられるものだけを食べているから変な太り方浮腫み方をしているし、出したものをしまう体力はなく物は散乱、とりあえずと買った冷えピタやポカリ、うどんが冷蔵庫いっぱいに入っている。絶望だ。

Kさんは家に来て仕事をしつつ看病めいたことをしてくれた。基本的には真っ暗にして眠りたいので、そこが懸念事項だけど、一緒に暮らしたら別の部屋にいられるだろうし、何とかお風呂に入れた日には裸のわたしを大きなタオルで包んで拭いてくれ、飲み物を差し出してくれ、半袖がいいと言えば半袖を、長ズボンがいいと言えば長ズボンを履かせてくれた。アイスノンも常に交換してくれたし、「こういうときはなぜかハムサンドだけは食べられるんや」と教えてくれた。実際食べられた。

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Kさんがちょっとおしゃれな媒体の取材を受けるというので、久しぶりにスタイリングめいたことをした。女性のカメラマンに「とても可愛い!」と褒めてもらったらしい。エアリズムのカーディガンは、暑がりのKさんにちょうどいい。きっと真冬になるまで着るだろうし、もう1枚、買い足してもいいかもしれない。

 

発熱、頭痛、鼻詰まり、胃腸の沈黙。
初の発熱外来へ。抗原検査、PCR検査を受けた。
結果陰性でホッとしたものの、体調不良に変わりなく、結果を引き下げて堂々と通常の外来受付へ行ったが再び隔離されて「なんでやねん」と声が出た。
仕事も2日ほど休んだ。
Kさんは一回だけ顔を出してくれ、泊まらずに帰った。このくらいの体調不良のときは一人の方が楽だなと思う。
差し入れのチョイスがいかにも「元気な成人男性」が好みそうなものばかりで、これは想像力の欠如とかそういう類のものですらないのだろう(これはこれでありがたい)。
ドアノブに立派な苺とリンゴジュースをかけてくれたのは近所に住む友人で、そういう意味で頼りになるのは女だとしみじみ思った。

いま●●●から連絡があったら、わたしはちゃんと無視できるだろうか。
あの自分勝手な、7時間ぶっ続けの、身体だけでなく舌も筋肉痛になるような、あの行為を、どこかで欲している自分がいる。

わたしが望むことはKさんにメスとしてもたっぷり可愛がってもらって、受け入れてもらうことなのに。
男の欲望は、わたしを救う、とことん救う。
今わたしを救えるのはKさんしかいないのに、●●●のことを考えてしまう。
わたしは言葉の正しい意味で心はビッチだけれど身体がついていかないな。

Kさんに泣かされた。
発端はくだらないことだったが、わたしがずっと気にしている「Kさんに見合う面白さがないこと」を執拗に責められたような気持ちになり、ビデオ通話越しにしくしく泣いてしまった。
ここで怒ることができない自分をはっきりと確認して「やっぱり関係性に自信がないのだと思う」と言うと、「じゃぁいますぐ籍を入れよう」「俺が意地悪だっただけだから、サキちゃんは何も悪くない、申し訳ない」と返された。
「そもそもサキちゃんは面白いよ、ネタの宝庫だし」と言われても、自分ではそうは思えないし、それがメスとしての魅力に通じていないなら、(この関係性では)あまり意味がない。
何か言葉を発しようとすると涙があふれてきて、「ちょっと考える」とだけ言って切ろうとしたら「なにを考えるの」と頑なに切らせてくれなかった。
「「考える」と言って電話を切られる方の身にもなってよ」と言われ、確かにそうだなと思い直す。

結局、わたしは自信がないのだろう。
Kさんに対して不安もないし別れたいなんて思ったことはないけれど「わたしでいいのかな」とは常々思っている。
「俺が自信を持たせてあげられてないことが問題だから、サキちゃんはそのままでいいんだよ」「もう意地悪しないで、優しくして」「分かった」。
「サキちゃんといるようになってからすごく調子いいもの、いてくれないと困るよ」とまで言わせてしまって、申し訳なくてまたしくしく泣いた。


次に会うのは明後日の予定だが、Kさんの仕事は忙しくて、きっと無理をしてわたしに会いに来る。それを思うと、また涙が出てくる。

自分の感情の種類と量をコントロールすることが苦手だ。
友達に「エモさがダダ洩れだよね」と言われるのも無理はない。

Kさんと少し広めの公園で待ち合わせをした。
オリエンテーションを終えたが行き場がない学生と、ベビーカーをひいた若いお母さんでいっぱいで、「見つけられるかな、と思ったらすぐ見つけた」「あ、可愛いなと思ったらわたしだった?」「若さがない奴がおるなと思ったらお前やったぞ」「おい」。
若く見られることが多いとはいっても、生命力が魅力だと言われても、若さとはまた別らしい。
「なんか甘くてふわふわしたお菓子たちの中に醬油豆みたいな奴がいるな、と」「それは言い過ぎだろ、お前の女やぞ」「俺の女は醤油豆で問題ない」。どんな会話だ。

鉄分を欲していたのでレバニラが食べたいとリクエストし、中華屋さんへ連れて行ってもらった。
100円ショップでお互い必要なものを購入し、プリクラを撮ろうとゲームセンターへ行くもなく、UFOキャッチャーでカービィをとってもらった。嬉しくて鞄に入れずに持って歩いていたら「40歳、やめなさい」と注意された。不本意

散歩をしてルノアールでこないだは食べられなかったケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。ルノアールのアップルパイは温かい。友達の誕生日用にカラフルなゼリー菓子を買いに少し歩いた。

Kさんは明日から出張へ。さみしいな。