行きつけの飲み屋のバイト君(大学6年生)に恋をしてしまった彼女(30代後半)は、“合鍵は渡さない”ということだけは決めている。
みんながいるときに鍵を渡さなくてはならない場合は、プルームテックのケース(どういうものなのか分からなかったので検索した)に入れて渡しているという。なにその無駄な現代感。
そもそも恋人ではないし、合でなくても鍵を渡す必要はないのだけど、彼女に「好き!大好き!」という気持ちがある以上、“合鍵は渡さない”ということだけしか守れないのだろう。よく踏ん張ってるなぁと感心してしまった。
「わたし、割とすぐ渡しちゃう」「サキはさ、そのへんなんていうか……一発入魂だよね」「それ使い方あってる?」「わからん。とにかく心の閉ざし具合と開き具合が、極端すぎるんだよな。この人、って決めたら絶対に持ち込むじゃん」「持ち込むって……カラオケ屋の食べ物じゃないんだから」。
好きだなぁいいなぁと思うと、セットで信頼してしまう。
「それはさ、優しさだよね、サキの異常な長所でしょ」「い、異常……?!」。
長所によって自分が傷ついているなんて、相当な自傷行為だなと思ったけれど、うれしかった。
自分が滑稽で、かわいそうだけど可愛くて、じわじわと笑えてきて、少しだけ元気になった。今日は雨音を聞きながら、久しぶりに長風呂をして、身体の隅々まできれいに洗い、ボディクリームを塗りこみ、パックをし、まつ毛美容液を塗り、たくさん眠ってやろうじゃないか、と思った。

傷ついたって、優しい人でいたい。好きな人たちのことは、信じていたい。
いままでは、きれいごとに聞こえていたあれこれが、心にしみる秋である(本当はあっさり発狂して喚き散らして楽になりたい自分を必死で抑えながら)。