今何をしているか、何時に終わるのか、明日は何時からなのか。
それだけを聞いてくる電話。
8時半に仕事が終わるから、お家に着けるのは9時半くらいかな、と言ったらば「そうか…」とあきらめ声を出し(なんであきらめるんだよ、そこから会えばいいじゃないかよ)、
電話を切ったあと「9時に着かないか」とラインが来る(その30分に何があるんだよ)。
「着かないな。なにかあるの?」と返信するも、特に反応なし。
なんであれ、会いたいと思ってくれてうれしい、声も優しくてうれしい。
会話みたいなものもしちゃって、うれしい。
その後、また着信が2件。「終わったら連絡しろ」というオラオラなラインが1件。
「しろ」なんていう言い方しちゃう んだよな。ふふふん、と思いながら、返信はしなかった。
8時に仕事は終わり、一旦家に帰る。
シャワーを浴びて炭酸水を飲んだ。
今日はもともと近所のカフェに行くつもりだった。着替えて、●●●の家方面のバス停とカフェ分かれ道で電話をする。すぐに出なかったら、カフェに行こう。
ワンコールで「終わった?!」と嬉しそうな声がした。「来れる?」「うん」「9時くらい?」「すぐバスに乗れればね」「うん」。
結局9時ちょうどに着くなんて、なんか、なんだろう。

****************

着いて割とすぐ、言い合いになった。
わたしはもう、●●●に怯えることはない。コミュニケーションが取れていることが分かっているから。
「帰れ」と言われて「分か った、帰る。もう会わない」とはっきり言った。●●●は焦ってわたしを抱き寄せてなにやらごにょごにょ言い、壁際に追い詰めてキスをした。
「こんな気持ちいいことを放棄するの?」

****************
「ねぇ、お前っていくつだっけ?」「来月38歳」「え?」「え?」「若く見えるね」「それはどうも・・・お祝いしてくれる?」「うん。また事前に教えてくれれば忘れないと思う」「うん(いまちゃんと聞いて覚えとけよ)」。
「あ…これは、これは撮らせてほしい」「ん?」「ダメ?」「いいよ(ツボが判らない)」。
「長野で震度5だって」「え」「こっち揺れなかったね」「うん」「大丈夫かな」「うん、大丈夫。誰も死なないよ」「うん、よかった」「誰も死なないよ」「うん」。
「明日の予定は?」「5時半に起きて、6時半に迎えが来る」「そう」「あ、タクシー代、3,000円で足りる?」「…うん…あ、わたしなんか萎えた」「なんで」「帰れってことでしょう」「準備とか、あるからさ」「それは分かるけども」「お前はいろいろマイナスにとらえすぎなんだよ」「じゃぁそうならないようにしてよ」「うん。頑張るよ」「うん」「でもさ、俺みたいなクズ と付き合っていくんだから、ある程度は覚悟して」「うん、そうだね(付き合って…いく?)」。

****************
一緒にお風呂に入って、背中を洗いっこする。話をしようとすると「声、抑えめで」と言われる。なんでだろうと思っていたが、「下に住んでいる大家のおばあちゃんが早寝の為」ということだった。理由がわかると安心する。「これから夜、家に入るとき、お邪魔しますとか言わなくていいからね」「わかった(これから…?)」
****************
玄関でキスをして、家を出る。「気を付けて」と言うなら、タクシーを拾うところまで送ってくれよと思う。
そんな期待をしている自分に気づいて、青ざめる。
全部を信じているわけではない。でも、嘘でもいい、その瞬間だけは信じようと思わせ られる。そういう力が、とても魅力的。
抗えなかったわたしが悪い。