海が見えてテンションがあがり、手足をばたつかせていたら、Dさんが「どうどう」(馬を落ち着かせるやつ)と言いながらわたしを囲むように抱きしめポンポンと背中をたたいた。
Dさんは身長182㎝、もともとラグビーをやっていたらしい。
Dさんを後ろに、同じ方向を向き、彼の足の甲に自分の足を乗せ、腕につかまり一緒に歩く。“うしろ竹馬”で部屋を探検。
お風呂が広くて、しかもアメニティがブルガリで、また手足をばたつかせた。
鏡に映ったDさんが、にこにこしていてとても嬉しい。
「もうお風呂ためようか」「うん」「一緒に入らない?」「今日は入らない!」「今日は、ね。言質とったからね」

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この期に及んでも、Dさんがわたしに欲情してくれるとは思えなかった。わたしは本当に本当に、メスとしての自信がない。
彼が先にお風呂に入った。さっきファミリーマートで買った、無印の白いTシャツに、黒いボクサーパンツ(ともにXLだがパツパツ)で出てきた。短い髪が濡れている。首にタオルをかけている。
「あ、男の人だ」と思ったら、緊張が走った。査定が始まってしまう。 わたしの顔がこわばっていることに気付いたのか横に座って「俺、めちゃくちゃ緊張してるんだよね…優しくしてね(ハート)」と呟き、肩に頭を乗せてきたので笑ってしまった。

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入れ替わりでお風呂につかりながら、セックスをするのはいつぶりだろうと考える。
Dさんはどうなんだろう。2年くらい恋人はいないと言っていたけれど、セフレがいたりするのかな。
53歳の男の人の性欲ってどうなんだろう。いままで、Dさんの部屋で二人きりになることがあっても、手を出されることはなかった。
メイクは潔く全てきれいに落とし、丁寧に体を洗う。腋の毛だけ剃った。
全身にブルガリのクリームを塗りこみ、無印の下着はつけず、履いてきたH&Mの下着を再びつけた。うっすいレース素材なので、お風呂に入る前に手洗いし、ドライヤーですぐ乾いた。
ブラジャーも一応つけ、無印の白のコットンキャミソールの上から、ホテルの前開き型で丈の長いパジャマを着る。
色つきリップを塗り、おずおずと風呂場から出た。
ベッドの上でビールを飲みながら、本を読んでいるDさんが見えた。

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Dさんは、思った以上に強引で、Sっ気が強く、わたしはたいそう興奮した。ギャップ萌、というものを初めて実感した。ふかふかした、安心感を具現化させたような、トトロみたいなDさんが、こんな。
興奮しきってえり首に噛みついたら、ニヤッとされて、仕返しに耳をガブリとやられてまた落ちた。

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「Dさん、いままでわたしが部屋に行っても何もしてこなかったから、そういう気は全然ないと思っていました」「ちょっとでも触っちゃうとブレーキきかなくなるのが分かってたからだよ。ひたすら我慢してただけ」。
「サキちゃんは、喜ぶのも喜ばすのも上手だねぇ……」「え!ほんと?うれしい。すごくうれしいめちゃくちゃうれしい」「ドンハマりしそうで怖いわ、俺」。

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