2つ年下の三宅くん(仮名)のこと。

三宅くんは広告会社の企画営業をやっている。どうやらやり手らしい。
髪は薄毛をカバーするための坊主で、身長は180センチ、最近ダイエットに大成功して12キロ痩せて、明らかな痩せ型。
金がある人!という感じのおしゃれさで、
初めて会ったときは、アンダーカバーのジャケットに黒のスキニー、ヴィヴィアンウエストウッドのローファーを履いていた。
インナーの黒い長そでTシャツも、明らかにユニクロでも無印でもない、ハイクとかビューティー&ユースとか、そのへんのもの。
財布はコーチで、鞄もグレーの柔らかい革製のものを使っていた。
宴会芸の強制にも、割と耐性があるような感じで「…おうおうおう、業界人だな!」というのがわたしの感想。

こういう業界人(風)の見た目と中身を持つ人は、わたしの周りにはいない。
あまりにもひょんなことから、二人で会うようになった。

こういう「範囲外」の人と話すと、自分が「世間」に対してどのようなコンプレックスを持っているかが浮き彫りになる。
何周も何周もした結果、最近は、素直にこの時間を楽しむことにしていた。

年上の友人が多いので、年下というだけで紋切り型のお姉さんを演じてしまう。
わたしは本当にメスとしての自信がない。

そのくせ友情恋愛家族愛みたいなもの一緒くたにしているところがあって、
姉を演じているくせに、当たり前のようにセックスもできてしまうであろう自分が恐ろしかった。

ただ、三宅くんが、わたしのことをメスとして見ているとはまったく思わなかったので、
そのそぶりを見せられたときには、尋常じゃなくびっくりした。
「三宅って呼んでいる限りは、たぶんキスとかできないから!」
「え!じゃぁいますぐ呼び方変えてください、今なら間に合います」。
何が何に間に合うのかは不明だが、笑ってしまったのでわたしの負けだ。

そのあとも、わざと「三宅~」「三宅~」と呼び続けるわたしに、三宅くんは苦笑していた。
「僕はサキさんになんて呼ばれようと、キスできますんで!ていうかしたいんで!」
「ちょっと!腕のプヨプヨしたところだけでも触らせてくださいよ!」と、わたしの二の腕を触ってきて幸せそうにしている。だけでも、ってなんだ。
あれ、ちょっといいかもしれない、と思った一瞬を見破られたのか、一気に抱き寄せられる。やられた。
「あー、最高。大好きですサキさん、恋人になってください」。
逃げ場のない、深読みも裏読みも許されない、まっすぐな告白をされたのは、久しぶりだった。
さすがは仕事のできる男、揺さぶるのがうますぎる……と思ったのを覚えている。