いつかの。


漫画家/イラストレーターのKさんは、出会った当初はイラストレーターだと言っていた。
小説家がライターだと名乗ることはよくあることで、そんなに珍しいことでもない。
Kさんの場合はイラストと漫画のタッチもペンネームも全く違ったので気付かなかったが、ふと点と点がつながるような感じですとんと落ちた。
本人には言わないでいたのだが、ある日「そういえばあれ面白かった~」とナチュラルに感想を伝えてしまい、お互いに“発覚”した。

ひそかに買って持っていた単行本を差し出してサインをもらう。
漫画家としてのKさんのサインを見るのは初めてだった。
「上手だね…」
「そう?ありがとう」。
あまりにも上手で、ものすごく近くで見入ってしまう。
「こんなに見てても緊張したり嫌だったりしないんだね」
「ん?全然平気だなぁ」。
インクが乾く間、わたしの頭をなでながら、Kさんはにこにこしていた。
わたしは本当にこういうプロの気持ちの強さに弱い。
「なんで漫画も描いてるって言わなかったの」
「サキちゃんと出会った頃はちょうど描いてない時期だったから」
「そうだけど」
「……ちょっとモテようとしたんだよね、わたしの漫画ひどいから」
「はははは、確かに」。