手をつなぐこと、キス、ハグ、セックスが、自分にとってどれだけ重要なのかを実感する日々だ。
ふと、このままKさんとセックスをしない選択肢があるのかもしれないという考えが過る。そのままKさんに伝えると「それはないない、勘弁してくれ~」と返された。
Kさんがわたしとしたいと思っているなんて、やっぱり信じられない。

今日も仕事の合間に会いに行った。わたしばっかり好きだなぁ、でもそれでもいい、とまだ思えている。

思わず「だから売れないんだよ…」と呟いてしまった。
想像力がないということは致命的だなぁと思う。例えその仕事に愛がなくても、仕事なのだから最低限はやってくれよ。わたしにまともなことを言わせないでくれ。
売れない理由って、実は単純明快だ。

こういうことがあると、愛がありすぎる自分が異常なんだろうなと再確認する。
そしてセックスがしたくてたまらなくなる。いまは相手がいるのにそれが叶わない。
これがすごいストレスで、わたしが発狂するとしたら、こういうタイミングなのではないか。

Kさんの仕事の合間に会いに行く。カレーを食べて散歩をして、喫茶店でフレンチトーストを食べて散歩をして、また喫茶店へ行った。
帰りの電車に乗るための改札に向かうわたしの身体は、鉛のように重い。
「いきなり歩みが遅っ!」と笑われた。
「さみしい」の感覚がバグっているKさんに「さみしい?」と聞くと「さみしくない」と返されるので「別れがたいねぇ」と言うようにしたら「それはそう!」と返してくれるようになった。

初めて、Kさんからの連絡が半日なかった。
仕事に集中しているか、これから忙しくなるのを見越して眠っているか、体調が悪いのか、わたしに連絡するようなテンションじゃないのか、嫌われてしまったか、はたまた他の女に会っているか。悲しい理由が次々と浮かぶ。
電話をしたりラインをしてもいいはずだったが、出来なかった。
0時を過ぎたあたりでビデオ通話がかかってきて「ごめん、めちゃくちゃ眠っていた、そしてゲームをしていた」とのことだった。
Kさんは元恋人との同棲期間が長かったので、いまの一人暮らしの自由気ままさが新鮮なんだろう。大いに楽しんでもらいたい気持ちと、さみしいという気持ちでごちゃごちゃになる。
「わたしから連絡が出来なかったということは、Kさんとの関係性に自信がないということだと思う」と素直に言うと、「いろんな心配をかけて申し訳なかった。なにも考えずに連絡してきて欲しい。仕事中でも眠っていても大丈夫だから」と返された。
そんなことはまだできない、と絶望する。

Kさんがときどき「もう少しで構ってあげられるようになるから待っててね」的なことを言うのだが、今でも十分すぎるほど構ってもらっているので、先を想像すると怖くなる。
一緒にぐるぐる周ってバターになるしか道はないかもしれないな。
昨日はビデオ通話をしながら、Kさんは作業を進め、わたしは久しぶりに来た文章仕事を進めた。
わたしはともかく、Kさんは明らかに効率悪かろう、と思って「気にしなくていいから切りたくなったら切ってね」と言うと「俺はそういう我慢の仕方はしないよ」と返された。
気付けば計6時間。元来わたしは電話すら苦手だが、Kさん相手なら大丈夫。いい感じで適当でいられる。
その前にも仕事先から駅までの間、自宅最寄り駅から家までの間で電話をくれたので、ずっと一緒にいるような感覚だし、両思いであることは事実のようだ。

話している最中、男友達Aから「いまから家に行っていいか」と連絡が来た。
Kさんとの共通の友達だが、わたしとKさんのことはまだ知らない。
なんて言うかなと思ったら「いいじゃない」とだけ言う。
「Kさんはわたしが他の男を部屋にあげてもいいの」
「サキちゃんのこともAさんのことも信用してるもの」
「でもAさんはわたしとKさんのことまだ知らないじゃない」
「そうだけど、Aさん奥さんいるしさ」
「そうだけど…嫉妬しないの?」
「嫌だなってときは「やめといて?」って言うよ」
「もっとあからさまに嫉妬してほしい」
「ははは、そっか」。
“最終的に二択になったとき、自分を選ばれなかったらすごくショックだけど”とKさんはよく言う。わたしはそんな状況は訪れないよ、とだけ答えている。

口ばっかりで行動が伴わない男のことは信じなさんな、という先人たちの教えからいくと、Kさんの行動はすごいと思う。
家にはあげないと言っていて、それはこの先も変わらないだろう(わたしもある程度は納得していた)と思っていたが、いきなり裸の合鍵をくれた。
いまの仕事が落ち着いたら、遊びに行ってもいいし泊まってもいいらしい。
わたしは心中とか建国の気持ちで人間関係を結んでしまいがちだから、どうしたって重い女になる。
塩対応のKさんに対して、好き好き言うことは簡単だったが、推定両想いになった今、自分のこの重さの調節が難しい。

今日も少しだけ会えた。夜食に食べてもらえたらと、おにぎりとおかずをタッパーに詰めて持って行ったが、これはありなのだろうか、と思うくらいにはまだ不安だ。
この不安はどこからやってくるのかと考えると、わたしのメスとしての自信のなさだろう。

「Kさんがしたいと思ってくれていればしなくても大丈夫。Kさんがわたしのことを想像してすこしでもエロい気持ちになってくれていたらしなくても大丈夫」
「したいにきまってるやん」。
それなのにしていない理由はここに書けないけれど、Kさんもわたしも、セックスに重きを置き過ぎだということは一致していて、もはや笑うしかないプラトニックな関係。
今日は我慢できなくて、エスカレーターでわたしの下に立つKさんの首をかぷっと噛んだ。あと指をペロッと舐めた。Kさんは「なんやねん」と苦笑していた。

Kさんと会えた。
飯田橋のカナルカフェで速度を落としていく総武線に向かって両手で思い切り手を振ったら「やめなさいよ」と苦笑された。母親と同じ反応だ。
水がたくさんあるところは本当にいい。「広めの公園と水がそばにあるところに住みたいね」などと話しながら、長い時間ぼんやり過ごす。
そのあともひたすら散歩。
神社でお参りをしてご飯を食べてお茶をした。
なんだかんだ、10時間くらい一緒にいたことにあとから気付く。こんなに長い時間いても足りない、と思うのだからびっくりする。
「ハグしてほしいなぁ、チューしたいなぁ」と独り言のように呟いたが、あからさまに無視!いつもの塩対応!と思った瞬間、路地裏にすっと引っ張られてマスクをパチンとずらされてキスされた。Kさんのこういうところが心底憎い。

毎日、後悔や懺悔のような気持ちで「めちゃくちゃ好きだなぁ」と思う。引き返せない何かを感じている。
これでベロチューとかセックスとかしてしまったら、普通に狂ってしまうかもしれない。