Kさんの仕事の最終確認を手伝った。
広い机が必要な作業で、富士そばで軽く食べ、いざルノアール
デートの雰囲気は一切なかった。
「ケーキ食べたいんやけど」「机が埋まるやろ、終わってからな」「そやな」。
閉店時間になっても終わらず、漫画喫茶へ。
広めのカップルシートに入るも色気なく作業を進めた。
作業が終了して思わずしたハグも「トンネル開通工事を達成した作業員のそれやな」と言うので二人で大笑い。
その後、放心するKさんに言葉なく近づき、ぺったりくっついて唇をペロペロ舐める。
「犬…犬がいる…」。
Kさんは犬を飼って思いきり可愛がるのが夢だという。「メス犬は嫌だな、嫉妬する」「犬にもするんか、すごいな」という会話をしたことがあった。
「犬がいる…これは飼わなくてもいいかもしれん…」。

「人に仕事を手伝ってもらうということが苦手だったが、その意識が少し和らいだ、ありがとう。相棒っていいね」と言われて、それは良かったなぁとしみじみした。

この冬、毎日酷使した「真っ白な土鍋」が真っ白なまま春になった。上出来だと思う。
"使ったらきちんと洗う"が、できるような安定した冬だったということだ。

***

Kさんと初めて会ってから、4ヶ月がたった。初めて二人きりで会ってからは3ヶ月。
総計10回。
Kさんの仕事のゴールが何となく見えてきた。わたしは大人なので、この先が怖い。

Kさんが忙しい中まめに構ってくれるので、今までの恋人にも同じようにしていたのかと聞いてしまった。答えは想像通りで、想像以上に落ち込んだ。
「今までの恋人なんて比べ物にならないよ、サキちゃんだけが特別だよ」なんて、Kさんが言うわけない。そんなことを言う人を、好きになるわけない。
それなのに、わたしは特別な存在でいたいと思ってしまう。
自分で仕掛けた罠に引っかかってジタバタして、暴れれば暴れるほど傷がどんどん広がっていく。

手をつなぐこと、キス、ハグ、セックスが、自分にとってどれだけ重要なのかを実感する日々だ。
ふと、このままKさんとセックスをしない選択肢があるのかもしれないという考えが過る。そのままKさんに伝えると「それはないない、勘弁してくれ~」と返された。
Kさんがわたしとしたいと思っているなんて、やっぱり信じられない。

今日も仕事の合間に会いに行った。わたしばっかり好きだなぁ、でもそれでもいい、とまだ思えている。

思わず「だから売れないんだよ…」と呟いてしまった。
想像力がないということは致命的だなぁと思う。例えその仕事に愛がなくても、仕事なのだから最低限はやってくれよ。わたしにまともなことを言わせないでくれ。
売れない理由って、実は単純明快だ。

こういうことがあると、愛がありすぎる自分が異常なんだろうなと再確認する。
そしてセックスがしたくてたまらなくなる。いまは相手がいるのにそれが叶わない。
これがすごいストレスで、わたしが発狂するとしたら、こういうタイミングなのではないか。

Kさんの仕事の合間に会いに行く。カレーを食べて散歩をして、喫茶店でフレンチトーストを食べて散歩をして、また喫茶店へ行った。
帰りの電車に乗るための改札に向かうわたしの身体は、鉛のように重い。
「いきなり歩みが遅っ!」と笑われた。
「さみしい」の感覚がバグっているKさんに「さみしい?」と聞くと「さみしくない」と返されるので「別れがたいねぇ」と言うようにしたら「それはそう!」と返してくれるようになった。

初めて、Kさんからの連絡が半日なかった。
仕事に集中しているか、これから忙しくなるのを見越して眠っているか、体調が悪いのか、わたしに連絡するようなテンションじゃないのか、嫌われてしまったか、はたまた他の女に会っているか。悲しい理由が次々と浮かぶ。
電話をしたりラインをしてもいいはずだったが、出来なかった。
0時を過ぎたあたりでビデオ通話がかかってきて「ごめん、めちゃくちゃ眠っていた、そしてゲームをしていた」とのことだった。
Kさんは元恋人との同棲期間が長かったので、いまの一人暮らしの自由気ままさが新鮮なんだろう。大いに楽しんでもらいたい気持ちと、さみしいという気持ちでごちゃごちゃになる。
「わたしから連絡が出来なかったということは、Kさんとの関係性に自信がないということだと思う」と素直に言うと、「いろんな心配をかけて申し訳なかった。なにも考えずに連絡してきて欲しい。仕事中でも眠っていても大丈夫だから」と返された。
そんなことはまだできない、と絶望する。