Kさんがときどき「もう少しで構ってあげられるようになるから待っててね」的なことを言うのだが、今でも十分すぎるほど構ってもらっているので、先を想像すると怖くなる。
一緒にぐるぐる周ってバターになるしか道はないかもしれないな。
昨日はビデオ通話をしながら、Kさんは作業を進め、わたしは久しぶりに来た文章仕事を進めた。
わたしはともかく、Kさんは明らかに効率悪かろう、と思って「気にしなくていいから切りたくなったら切ってね」と言うと「俺はそういう我慢の仕方はしないよ」と返された。
気付けば計6時間。元来わたしは電話すら苦手だが、Kさん相手なら大丈夫。いい感じで適当でいられる。
その前にも仕事先から駅までの間、自宅最寄り駅から家までの間で電話をくれたので、ずっと一緒にいるような感覚だし、両思いであることは事実のようだ。

話している最中、男友達Aから「いまから家に行っていいか」と連絡が来た。
Kさんとの共通の友達だが、わたしとKさんのことはまだ知らない。
なんて言うかなと思ったら「いいじゃない」とだけ言う。
「Kさんはわたしが他の男を部屋にあげてもいいの」
「サキちゃんのこともAさんのことも信用してるもの」
「でもAさんはわたしとKさんのことまだ知らないじゃない」
「そうだけど、Aさん奥さんいるしさ」
「そうだけど…嫉妬しないの?」
「嫌だなってときは「やめといて?」って言うよ」
「もっとあからさまに嫉妬してほしい」
「ははは、そっか」。
“最終的に二択になったとき、自分を選ばれなかったらすごくショックだけど”とKさんはよく言う。わたしはそんな状況は訪れないよ、とだけ答えている。

口ばっかりで行動が伴わない男のことは信じなさんな、という先人たちの教えからいくと、Kさんの行動はすごいと思う。
家にはあげないと言っていて、それはこの先も変わらないだろう(わたしもある程度は納得していた)と思っていたが、いきなり裸の合鍵をくれた。
いまの仕事が落ち着いたら、遊びに行ってもいいし泊まってもいいらしい。
わたしは心中とか建国の気持ちで人間関係を結んでしまいがちだから、どうしたって重い女になる。
塩対応のKさんに対して、好き好き言うことは簡単だったが、推定両想いになった今、自分のこの重さの調節が難しい。

今日も少しだけ会えた。夜食に食べてもらえたらと、おにぎりとおかずをタッパーに詰めて持って行ったが、これはありなのだろうか、と思うくらいにはまだ不安だ。
この不安はどこからやってくるのかと考えると、わたしのメスとしての自信のなさだろう。

「Kさんがしたいと思ってくれていればしなくても大丈夫。Kさんがわたしのことを想像してすこしでもエロい気持ちになってくれていたらしなくても大丈夫」
「したいにきまってるやん」。
それなのにしていない理由はここに書けないけれど、Kさんもわたしも、セックスに重きを置き過ぎだということは一致していて、もはや笑うしかないプラトニックな関係。
今日は我慢できなくて、エスカレーターでわたしの下に立つKさんの首をかぷっと噛んだ。あと指をペロッと舐めた。Kさんは「なんやねん」と苦笑していた。

Kさんと会えた。
飯田橋のカナルカフェで速度を落としていく総武線に向かって両手で思い切り手を振ったら「やめなさいよ」と苦笑された。母親と同じ反応だ。
水がたくさんあるところは本当にいい。「広めの公園と水がそばにあるところに住みたいね」などと話しながら、長い時間ぼんやり過ごす。
そのあともひたすら散歩。
神社でお参りをしてご飯を食べてお茶をした。
なんだかんだ、10時間くらい一緒にいたことにあとから気付く。こんなに長い時間いても足りない、と思うのだからびっくりする。
「ハグしてほしいなぁ、チューしたいなぁ」と独り言のように呟いたが、あからさまに無視!いつもの塩対応!と思った瞬間、路地裏にすっと引っ張られてマスクをパチンとずらされてキスされた。Kさんのこういうところが心底憎い。

毎日、後悔や懺悔のような気持ちで「めちゃくちゃ好きだなぁ」と思う。引き返せない何かを感じている。
これでベロチューとかセックスとかしてしまったら、普通に狂ってしまうかもしれない。

しばらくはKさんに会えないと思っていたが、お昼ご飯を一緒に食べることができた。
無理させているような気がしていたけれど、そんなことない、と思わせてくれてありがとう。
ラーメンを食べて散歩して、ミルクセーキを飲んだ。
二人きりになるタイミングがなくて、手をつなぐことと二の腕に顔をこすりつけることしかできない。
帰りの駅までの道すがら「寂しい泣いちゃう大好き」と言うと、ふざけた声色で「俺も俺も~」と手をぎゅぎゅっと握ってくれた。
Kさんとわたしが裸で抱き合える日はいつになるだろう。
そもそもKさんにその欲望があるように見えないのが今の悩み。
「Kさんとわたし、ちょうどいいと思わないかい」
「すごい自信だな」
「サキがいるから大丈夫、って思ってもらえるようになりたい」
「もうそこそこ思ってるよ」
「そこそこかよ」。


***


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Kさんと会えた。
カレーを食べて散歩して本屋さんへ行って散歩してホームセンターへ行って公園でぼんやりしてお茶して散歩して100均に行ってしゃぶしゃぶを食べた。
しゃぶしゃぶを食べながらした話の中で「こいつにはかなわない」と思ったらしい。
わたしはそれのどこが「かなわない」のか、分からなかった。
帰りのエレベーターでハグをしてキスをしてくれた。Kさんからアクションがあったのは初めてだったのではないか。
「サキちゃん、速攻舌を入れてこようとしてこいつやってんな、と思ったわ」「わたしはチャンスを逃さない女です」。
嬉しくて嬉しくて、駅まで歩く間ずっと「えへへへっへへへへへ」と笑っていたら「ヤバい奴を連れているみたいだからやめなさい」と言われた。
これは母にもよく言われることで、わたしはすぐにこうなってしまう。

一番嬉しかったのは、お母さんの話をしてくれたこと。
わたしはあなたの友達だし恋人だし母だし、という気持ちでいるよ。
まだ伝えるのは早いだろうと思いつつ、次に会ったら言ってしまうかもしれないな。

有給消化の期限が近づいていて、久しぶりに連休だった。
オンラインお茶会をしたり、ファミレスへ行ったり、病院へ行ったり、映画を見に行ったりした。本もたくさん読めた。
Kさんと過ごす時間以外もきちんと充実していて、彼のことを本当に信用しているなと感じる。「サキちゃんが浮気しても戻ってきてくれればいいよ」と言うけれど、想像がつかない。

Kさんがうちに来た。
わたしの作ったご飯を「おいしい、全部おいしい」と言ってもりもり食べてくれた。3合炊いたご飯もなくなりかけた。
わたしに触れもせず、食後のコーヒーを飲んで帰ろうとするので、背中越しに「ハグぐらいさせてよ」と声を掛ける。振り向きもせず「お好きにどうぞ」と言うのでシマウマを襲うライオンみたいに後ろからがっつり抱き着いた。
駅まで手をつないで歩く。ちょうどわたしの頭らへんにある二の腕に顔をこすりつける。マーキングの気持ちでやっていたら「犬やん」と笑われた。バレてる。