いま●●●から連絡があったら、わたしはちゃんと無視できるだろうか。
あの自分勝手な、7時間ぶっ続けの、身体だけでなく舌も筋肉痛になるような、あの行為を、どこかで欲している自分がいる。

わたしが望むことはKさんにメスとしてもたっぷり可愛がってもらって、受け入れてもらうことなのに。
男の欲望は、わたしを救う、とことん救う。
今わたしを救えるのはKさんしかいないのに、●●●のことを考えてしまう。
わたしは言葉の正しい意味で心はビッチだけれど身体がついていかないな。

Kさんに泣かされた。
発端はくだらないことだったが、わたしがずっと気にしている「Kさんに見合う面白さがないこと」を執拗に責められたような気持ちになり、ビデオ通話越しにしくしく泣いてしまった。
ここで怒ることができない自分をはっきりと確認して「やっぱり関係性に自信がないのだと思う」と言うと、「じゃぁいますぐ籍を入れよう」「俺が意地悪だっただけだから、サキちゃんは何も悪くない、申し訳ない」と返された。
「そもそもサキちゃんは面白いよ、ネタの宝庫だし」と言われても、自分ではそうは思えないし、それがメスとしての魅力に通じていないなら、(この関係性では)あまり意味がない。
何か言葉を発しようとすると涙があふれてきて、「ちょっと考える」とだけ言って切ろうとしたら「なにを考えるの」と頑なに切らせてくれなかった。
「「考える」と言って電話を切られる方の身にもなってよ」と言われ、確かにそうだなと思い直す。

結局、わたしは自信がないのだろう。
Kさんに対して不安もないし別れたいなんて思ったことはないけれど「わたしでいいのかな」とは常々思っている。
「俺が自信を持たせてあげられてないことが問題だから、サキちゃんはそのままでいいんだよ」「もう意地悪しないで、優しくして」「分かった」。
「サキちゃんといるようになってからすごく調子いいもの、いてくれないと困るよ」とまで言わせてしまって、申し訳なくてまたしくしく泣いた。


次に会うのは明後日の予定だが、Kさんの仕事は忙しくて、きっと無理をしてわたしに会いに来る。それを思うと、また涙が出てくる。

自分の感情の種類と量をコントロールすることが苦手だ。
友達に「エモさがダダ洩れだよね」と言われるのも無理はない。

Kさんと少し広めの公園で待ち合わせをした。
オリエンテーションを終えたが行き場がない学生と、ベビーカーをひいた若いお母さんでいっぱいで、「見つけられるかな、と思ったらすぐ見つけた」「あ、可愛いなと思ったらわたしだった?」「若さがない奴がおるなと思ったらお前やったぞ」「おい」。
若く見られることが多いとはいっても、生命力が魅力だと言われても、若さとはまた別らしい。
「なんか甘くてふわふわしたお菓子たちの中に醬油豆みたいな奴がいるな、と」「それは言い過ぎだろ、お前の女やぞ」「俺の女は醤油豆で問題ない」。どんな会話だ。

鉄分を欲していたのでレバニラが食べたいとリクエストし、中華屋さんへ連れて行ってもらった。
100円ショップでお互い必要なものを購入し、プリクラを撮ろうとゲームセンターへ行くもなく、UFOキャッチャーでカービィをとってもらった。嬉しくて鞄に入れずに持って歩いていたら「40歳、やめなさい」と注意された。不本意

散歩をしてルノアールでこないだは食べられなかったケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。ルノアールのアップルパイは温かい。友達の誕生日用にカラフルなゼリー菓子を買いに少し歩いた。

Kさんは明日から出張へ。さみしいな。

セックスをして、心底安心した。たとえわたしから襲ったとしても、Kさんの性的対象にはなれたと実感できたから。
「相性がいい」ということがどういうことなのか、昔からピンときていなかった。
歴代の恋人に言われるたびにどういうこと?と聞き続けてきたが、Kさんに「サキちゃんも俺もドスケベだってこと」と説明され、初めて納得した。
物理的な身体の相性ということではなくて、セックスに対する考え方が合うということなんだろう。
トイレに行って鏡を見たら、あからさまに女の顔をした自分がいて、この分かりやすさは自分でもどうかと思う。

「ずっとずっと舐めていたい」「気が狂うまでやりまくりたい」「これから一人でするときはなるべくわたしのことを思ってほしい、AVは見てもいいけどわたしの顔や身体をうまいことオーバーラップさせてほしい」
「そんなこと初めて言われたわ」「今日でサキちゃんの身体とか声とか覚えたから、出来ると思うよ」。
***
この先も一緒にいられるだろうか。誰にも分からないことで不安になるのは嫌だけれど、Kさんがわたしをぎゅうぎゅう抱きしめながら「こんなに面白い子、俺から手放すわけないよ」と言ってくれたので、ポロポロ泣いてしまった。

Kさんが初めて家に泊まった。
USBと紙資料を持ってきたので嫌な予感がしたが案の定、残っている仕事があるとのこと。結局「サキちゃんちで仕事ができるか試してみる」テストになった。
数時間で終わると言っていたが丸一日かかり、初のお泊りはイベントではなくいきなり「生活」で、わたしは周期的なこともあり眠ってばかりいた。
そのうち「二泊してもいい?」と口にしたので、テストはうまくいったのだと分かった。
アイディアに煮詰まっているKさんと散歩に出る。柚子醤油ラーメンを食べ、ドン・キホーテでマスクと「念のため」とコンドームをカゴに入れていた。

仕事がひと段したあとの目覚めは清々しく、カレーを食べて近くの公園まで歩いた。いつも並んでいるたい焼き屋さんに人がいなかったので、焼きたてを1匹買った。
公園でのんびりして初めて二人で写真に収まる。「生活」の顔をしていた。

夕方ごろ帰宅して、ゴロゴロしているKさんを襲った。

親友ふたりと飲んできたというKさんと電話。
「恋人ができた、来年にでも結婚する」「早くしろ」という会話をしたらしい。
「お前がそんな風に言うなんてすごい」「逃がすな」などなど。
ポイントとしてはやっぱり仕事を手伝った(そしてそれを猜疑心の強いTさんが頼んだ)ということらしい。

Kさんの元恋人は「なーんか変わっていて面白い人」として周知されていて、わたしは遠く及ばない。
周りの人に「結局普通の人を選んだね」と思われることがKさんの為にはならなさそうだし、Kさん自身も「こいつつまんないなぁ」と思う日が来るのではないだろうか。
やんわりそれを伝えると「元恋人は、最初から大根だと思って畑から抜いたらそのまま大根で、サキちゃんは抜いてみたらいろいろくっついてきて本当に面白いよ」と言われた。
過日、わたしはKさんに、他人にはそう話さないことを告白した。それがたいそう面白かったようで、そのことを指しているのだろう。
納得は出来ないが、なんとなく理解した。

セックスもまだしていないのに浮気も心配だ。
「浮気はしないなぁ、そういう気持ちにならないよ」
「それはわたしとあなたがまだしていないからでしょう」
「いや、したらもっとそういう気持ちが加速すると思う」。
Kさんのこの自信はなんなんだろう。

本社での面談の為に髪を少し暗めに染めた。
格段に幼くなるしおしゃれに気を使ってない感じになってしまうので、化粧をしなければならないしちゃんとした服を着なくてはならないのが面倒だ。
ビデオ通話でKさんに見せてみたがあまり反応がない。良いとか悪いとかでなく、ない。
甘い感じで褒められたこと、一回もないんじゃないかな。やっぱりわたしのこと、「恋人」としては「そんなに」なんじゃないかな、と感じる。
そのくせ自分は、仕事で使っている名前ではなく本名で呼んで欲しい、みたいなことを遠回しに言う。
友達だし恋人だし妻だし夫だし母だし父だし、仕事仲間でもある、というのがわたしの理想だけれど、
まだセックスをしていないのに「恋人」要素がここまでないのはしんどいな。
テレビに出ているアイドルを褒めるKさんを嫉妬の気持ちではなく悲しい気持ちで見てしまう。
早めにきちんと話しておかないと、一人でしくしく泣いたあと爆発してしまうかもしれないな。