Nさんは写真を撮る人だったが、わたしの写真はあまり撮らず、仕事以外では、庭に遊びに来る白黒の猫ばかりを撮っていた。

なぜわたしを撮らないの?と聞いたことがある。

「ふとした瞬間を撮りたいのだけど、そのときサキちゃんがどんな気持ちか分からないからさ」

「ふむ」

「僕の撮りたい気持ちより、サキちゃんが撮られたくない気持ちの方が大きいかもしれないし、僕はエロい気持ちありきだから、それって暴力的じゃない」

「ふむ…ということは、たまに撮られているときはガンガンにそういう気持ちで見られているということなんだね」

「あ……はい」

「わたしが可愛くないから撮る気にならないのかと」

「そんなわけないでしょう。猫よりもずっと可愛いよ」。


優しい人だった。同時に、自分の欲望に自信のない人だった。

判断を任せられることが多く、それがわたしのプレッシャーになることがあった。

彼に、わたしの気持ちを超えた何かをお願いされたことは、ほとんどない。


●●●とは真逆だ。

●●●との方が一緒にいて楽だったのだから皮肉なことだ。

「撮らないでよ」「なんで。撮るよ」大喧嘩になったこともあるし、

「お願い、撮らせて。お願い。お願い。これは撮りたい」懇願されたこともある。

いつもわたしの気持ちを、欲望を、上回っていた。


いつもギチギチで、生命力が強いあの人。

わたしのことなんて覚えてもいないだろう。