ゴールデンウィーク、事務所に人が少ないのをいいことに、すっぴんバンドTで出勤していた。

楽~。話しかけられないしメールも少ないから仕事が進む~。

連休明けの今日はなんとなくそうもいかなかったが、丸腰(水筒もお弁当も持たないことを指す)で出勤。

 

***

 

久しぶりに下北沢に行ったら、駅がすごいことになっていた。

そもそも南口があって、TSUTAYAがあって、ドトールがあって、HOKUOという小田急系のパン屋さんがあったのに。

 

友人とランチ。

「酔っ払うと痣が残るほど噛んでくる恋人」について相談され、ニヤニヤしてしまって怒られた。

それは彼からのお誘いなのでは?と思ったが、そういうことではない、と否定され続けた。

「単純に噛む感触がほしいなら、茎わかめとかよっちゃんイカとか食べるでしょ」「なんで駄菓子ばっかり」

「じゃぁ…犬用の骨…?」「用意が難しい!」。

 

わたしにも噛み癖がある。

「食べちゃいたいくらいあなたが好き」という意味があるし、

痣になったり血が出たりすると「ふ~!生きてるぅ」という、自傷行為:プランBという意味もある、と最近気づいた。

つくづく同体願望が強い。だからセックスも好きなんだと思う。

溶けて混ざって、ぐちゃぐちゃになって、ひとつになってしまいたい。

その素質は、割とある方だと思う。

 

いつかの。

 

*****

 

わたしを含め友人5人で、夕方から飲んだ。

居酒屋からカフェに移動し、コーヒーを飲み、ケーキも食べた。

珍しく楽しく酔っ払い、歩いて帰ることにする。

途中、Tさんから【もう家?気分転換にドライブしようかと思って。付き合ってくれない?】と連絡が来た。

【歩いて帰っているところだよ。付き合う!】と返信し、大きめの道沿いにあるスーパーで待ち合わせをすることにした。

【アイス食べたいー】【賛成。スーパーの中で待ってて】。

アイスコーナーで合流し、チョコモナカジャンボパピコ、惰性でガリガリくんをかごに入れた。

Tさんはお米も買っていた。「あまり来ないスーパーでいつもとは違う米を買いたかったんだー」。

ドライブが大好きだけれど、Tさんと付き合うまではなかなか機会がなかった。

バスも好きだし新幹線も好き、でも普通の電車はあんまり好きじゃない。自転車の後ろに乗るのは好き。

「サキは縦移動が好きなんじゃないの」「縦?」「縦だとあれか、ドローンのはじめらへんみたいなことになっちゃうか」

「直線移動?」「平行移動?」「それだ」。

 

「仕事は進んだ?」「まぁまぁだなぁ」「〆切、明後日だっけ」「うん。あ、明日明後日、休みだよね」「うん」

「今日、家に持って帰ってもいい?」「うん」。

Tさんは、酔ったわたしを迎えに来てTさんの家に一緒に帰ることを「持ち帰る」と言い、

事前に約束をしていても「持って帰っていい?」と聞く。

「気分が変わるかもしれないし」。

そのくせ「今日は持って帰るからね」と言い切るときもある。


***


都内を2時間ほどぐるぐるとドライブし、Tさんの家に無事持ち帰られた。

わたしはすぐにお風呂に入り、Tさんは台所で仕事を始めた。

 

***


わたしがひと眠りして起きたら、Tさんはまだ台所にいて仕事をしていた。

「うぅ、あと少し」「うん。がんばれー。ご褒美は何がいい?」「5時間耐久なんちゃら」「今日は無理でしょ…Tさんが」「じゃぁお風呂で背中流して…」「了解。とりあえず豆からコーヒーいれようか」「うん。あと、ちょっとこっち来て」。

そう言って、Tさんは、わたしをぎゅぅと抱きしめて、頭に顔をうずめ、大きく息を吸って吐いた。吐いた息で頭がもわっと熱くなる。

Nさんは写真を撮る人だったが、わたしの写真はあまり撮らず、仕事以外では、庭に遊びに来る白黒の猫ばかりを撮っていた。

なぜわたしを撮らないの?と聞いたことがある。

「ふとした瞬間を撮りたいのだけど、そのときサキちゃんがどんな気持ちか分からないからさ」

「ふむ」

「僕の撮りたい気持ちより、サキちゃんが撮られたくない気持ちの方が大きいかもしれないし、僕はエロい気持ちありきだから、それって暴力的じゃない」

「ふむ…ということは、たまに撮られているときはガンガンにそういう気持ちで見られているということなんだね」

「あ……はい」

「わたしが可愛くないから撮る気にならないのかと」

「そんなわけないでしょう。猫よりもずっと可愛いよ」。


優しい人だった。同時に、自分の欲望に自信のない人だった。

判断を任せられることが多く、それがわたしのプレッシャーになることがあった。

彼に、わたしの気持ちを超えた何かをお願いされたことは、ほとんどない。


●●●とは真逆だ。

●●●との方が一緒にいて楽だったのだから皮肉なことだ。

「撮らないでよ」「なんで。撮るよ」大喧嘩になったこともあるし、

「お願い、撮らせて。お願い。お願い。これは撮りたい」懇願されたこともある。

いつもわたしの気持ちを、欲望を、上回っていた。


いつもギチギチで、生命力が強いあの人。

わたしのことなんて覚えてもいないだろう。

 

美容院に行って、髪を染めてもらった。

努力せずに可愛くなりたい、おしゃれに見られたい、そんなわたしの欲望をふたりがかりで叶えようとしてくれている。

お金が介在しているとはいえ、突然申し訳なくなる。

ブリーチをしようと思っていたが、梅雨時期に髪が痛んでいると扱いが難しくなりそうで、普通のカラーにしてもらった。ピンクっぽいベージュ。ローライトも同系色で。おっしゃれー。

 

***

 

ここ3日くらい、いろいろ考えていた。

 

◆姫乃たまちゃんのことを「中年サブカルおじさんが転生したら地下アイドルになって夢を全部叶えてた件」と友人は評し、別の友人は「20代の自分が成仏した」と言った。

このことを聞いて、わたしが姫乃ちゃんにドンハマりしなかった理由がはっきりした。

わたしはまだ、何も諦めていないのだ。震える。

 

◆高校時代の友人と会い、「いつが一番楽しかった?」と聞かれ、「いま」と即答したたら、たいそう驚かれた。

この友人は、わたしから見ると「可愛い自分」というものに良くも悪くも振り回されているように思う。「若くて」可愛い自分、でなくなっていく憂いというものを、会うたびに感じる。「若くて」可愛かった頃、舐められたくない、という落としどころを見つけて仕事のモチベーションも高かったように見えた。「あなたはいつが一番楽しかったの?」とは聞けなかった。 この友人の加齢に対する感覚は、きっと、まっとうなものなんだろう。震える。

【わたしはもともと体力、生命力がないので加齢による衰えを感じていない。アトピーもひどかったから肌に関してもそうだし、ずっと太っているから体型だってそんなに変わらない。加齢と戦う、加齢を憂う、ということが一切ない。そんなことよりも、正気を保つことのほうが重要な人生だったのだ。】わたしは今日も正気を保つことに必死だよ。

 

◆久しぶりの友人(同い年の男性)とラインのやりとり。最近全然モテないんだ、と愚痴ったら「それはやばい。モテてないということは面白くないということだぞ」と言われて背筋が凍った。「男性のほうが有利なのは否めないけど、年齢を重ねても面白ければモテる」。寒気がした。その通り過ぎる。図星をつかれると人は風邪をひく。

 

◆自分のセンサーが鈍っていて、●●●と会うチャンスを逃した。凍死しそう。

 

 

ゴールデンウィーク。仕事は通常通り。

◆高校時代からの友達に誘われて、久しぶりに会った。左の薬指に指輪をしていたが、結婚したわけではなかった。

◆バンド編成で歌う七尾旅人を見てきた。≪早く行きたいなら一人で、遠くに行きたいならみんなで≫という言葉を思い出した。わたしのこのブログタイトルは『犬がいなくなって探す』、七尾旅人のアルバムタイトルは『Stray Dog』。

◆Kと代官山から恵比寿まで散歩をし、お茶をし、買い物をした。「友達」についてたくさん話した。Kは本名を出してWEB日記を書いている。ものすごいアクセス数のある人気の日記。そこには書かれることのない話しかしていないのが、誇らしくもあり、寂しくもある。

◆姫乃たまのライブに行った。終演後、ものすごく久しぶりの友人を見つけた。抱きしめ合った。そのまま高く高く持ち上げてくれた(物理的に)。

 

 

 

【女性は1回限りというのはノーカウントにできる生き物ですのであっけらかんとうまくいきます。もちろんコツは必要です。】

という迷惑メールが会社宛に来た。

今までの人生で一回限りだったことが、1回だけある。ノーカウントにはできません。

おい、そこのお前だよ。一生許さないからな。

 

***

 

知らない天国よりも、知っている地獄を選んでしまうときがあるけれど、

地獄で快適に過ごそうとすると、周りにかなり迷惑をかけるし、未来に歪みが生まれる。

地獄を選んだなら「地獄でなぜ悪い」と覚悟を決めなくてはならない。

わたしは知らない天国にチャレンジをしたものの、いるはずのない●●●が待っていた。

びっくりはしたが、迷うことなく抱き合った。

いまはもう、天国にチャレンジする気にはなれず、天国とも地獄ともつかないこの場所で、●●●を待っている。

地獄でなぜ悪い」の覚悟は、とうにできているというのに。

 

母に頼まれていたワッペンをブローチに直す作業をし、IKEAで買った掛布団カバーの四方に紐をつけた。洗濯を3回、シーツと掛布団カバー、ラグマットも洗った。

「風呂に入って後悔することなんてない、ほぼ100パーセントで「入って良かった」と思うから、迷うくらいならとりあえず入れ」と言ったのは誰だったか。

その通りだと思う。「入らなければ良かった」と思ったこと、ない。だから入った。

コーヒーを飲みながら本を読み、朝5時ごろ就寝、12時起床。

午前中指定にして玄関前に置いておいてくださいと言っておいた荷物が不在で持ち帰られており、萎える。

今日は、何もしないと決めていたので、何もしなかったが、アイスコーヒーを丁寧に入れた。

 

***

 

居酒屋で『部屋とワイシャツと私』が流れてきて「この歌、気持ち悪いよな」と●●●がつぶやいたことを思い出して、改めて歌詞を検索してみる。……なるほど。